古賀稔彦公式サイト特別企画|平成の三四郎が語る北京五輪「一本柔道」の行く末


 
 2008年夏に行なわれた北京五輪。日本柔道勢は、内柴正人選手、谷本歩実選手、上野雅恵選手の2連覇を含め、
金メダル4個、合計7個のメダルを獲得しました。
 1992年のバルセロナ五輪で金メダルを獲得した「平成の三四郎」こと古賀稔彦が、今回の北京五輪の日本柔道を
振り返ると共に、2004年アテネ五輪で師弟関係を組み、見事金メダルを獲得した愛弟子・谷本選手について、隠さ
れたエピソードを語ります。(取材日:2008年9月2日・古賀塾にて)


――まずは、教え子でもある谷本歩実選手のお話から。見事、2大会連続で金メダルを獲得されましたね。おめでとうございます。試合前に何か声をかけられたんですか。

古賀:
彼女は、アテネ五輪が終わってからオリンピックチャンピオンとして世界から目標にされ、相当に研究もされたんですよ。その中で自分の柔道に自信をなくしたり、腰痛もあったりで、4年間は絶不調といっても過言ではなかったんです。代表選考の大会で負けてしまい、それでも結果代表に選ばれたことで自分を責め、私に会っても挨拶もなく、電話してもとらないという状況が本番(北京五輪)直前の5月までありました。自分で様々なストレスを抱え込んでいたんですね。
 そこで私は、『現実を受け止めなさい。今はお前が日本代表だ。代表として置かれている立場を考え、行動しなさい。今はしっかり悔いのないように準備をして、五輪に集中する時期だ』と言ったんです。加えて、『周り(親・兄弟/家族)はどんな状況になってもお前を見捨てはしない。自信を持ちなさい。いろんな言葉に左右されていては、本番まで間に合わない』とも言いました。それからまもなく調子が良くなったと関係者から聞きました。私の言葉がどこまで効いたかは分かりませんが、少しでも力になっていればうれしいですね」


――これは古賀さんがよく講演でお話されています「決心する」ということですよね。

古賀:「そうですね。前回のアテネでは、それができ結果に繋がっていたから、 今回もそれを思い出させてあげようと思ったんです。前回の金メダルは本人のためでよかったんですが、今回はサポートしてくれている周りの人のためにも、金メダルで恩返しをしなさいともアドバイスをしました」


――今大会の日本勢は、思ったような結果を残すことが出来ませんでした。今後、日本柔道に求められるもの何だとお考えですか。

古賀:「柔道は勝てればいいというわけではないと思うんです。勝利だけにこだわった選手は結果的に負けています。日本柔道は、やはり一本勝ち(一本柔道)が基本で、それが自ずと自分を極めていくことにもなります。体格や体力は外国の選手に劣っていても、一本勝ちを意識する柔道を続けることで、妥協を失くし、ものごとの本質も見据えることができます。それが柔道の醍醐味だと思いますし、観客も感動し、自信にもつながる。自分の技や柔道の心を極め、結果を出していく『一本の美学』がこれからますます求められると思います」


――その「一本の美学」というものが、愛弟子・谷本選手に継承され、オール一本勝ちという結果に結びついたのですね。

古賀:「彼女も優勝後のインタビューで口にしていましたが、『柔道家は芸術家』ですからね」

――その中で、北京五輪柔道男子100キロ超級で石井慧選手が、見事、金メダルを獲得されました。石井選手についてどのような印象をお持ちですか。 (取材日:2008年9月2日)

古賀:「常に自分自身を高め、極めようとする選手で、『修行』という気持ちをしっかり持っている選手だと思います。金メダルを獲得して、皆から祝福されて、今はその祝福にしっかり応え、喜びを感じていい時期です。食べたいものを食べ、好きなことをするべきだと思います。私もそうでしたから(笑)。しかし、次の目標に向かう時、また『修行』に戻る時期がきます。自分がいつ本腰を入れていくか、いつ、修行僧として気持ちを切り替えていくか、自ずと分かると思います。これから、ますます楽しみな選手ですね」


――では、古賀さんがアテネ五輪コーチ時代を含めて、交流が深い選手の話に移りたいと思います。塚田真希選手(78キロ超級)は、残念ながら金メダル目前で一本負けを喫し、結果的には銀メダルを獲得。塚田選手自身も「自分のスタイルを貫き通せたと思っているので、そういう気持ちもあってスッキリしている」とコメントされていましたが。

古賀:「決勝の相手は、ライバルでもある中国の●文(トウ・ブン)選手でした[●=にんべんに「冬」]。その相手を倒すこと、イコール『金メダル』だということを目標に、ここまで頑張ってきました。その成果を試合でも見せてくれたと思いますし、自信にもなったと思います。結果は残念でしたが、彼女自身、悔いを残していないし、自分に恥ずかしくない努力と勝負ができたと思いますね。またそれが、五輪の舞台に立つことができた証だと思います」



――ヤワラちゃんこと谷亮子選手は、5大会連続のメダル獲得という快挙を成し遂げました。北京五輪では銅メダルでしたが、金メダルも獲れる実力はあったと思います。

古賀:「彼女ほど、世界の頂点に立ち続けた人はいません。また、彼女ほど柔道を知っている人もいません。その厳しさを分かっていて、努力もできる選手です。北京オリンピックでは銅メダルでしたが、それについて評価や解説をする必要はないと思いますよ。それよりも、一柔道家である以上、谷亮子として柔の道は一生続いていくわけで、今後、いずれ現役を引退したときには、今まで経験してきた、たくさんのことを後輩たちに伝えていくことが役目だと思いますし、ぜひ伝えていってほしいですね」


――最後に、古賀さんご自身についてお伺いします。20歳の時にソウル五輪に出場されて以来、今回の北京五輪は、初めて五輪に直接関わらなかった大会だったと思います。「外から見た五輪」はいかがでしたか。

古賀:「4年に一度の五輪は、選手みんなが必死になって戦っています。今までは、選手や指導者として現場にいたので、他の競技も含めてあまり観ることができなかったんです。ただ今回は、柔道のみならず、さまざまな競技の『真剣勝負』をじっくり観ることができてとても感動しました。
  やはり、真剣であるということは美しいですね。日常において、どれだけ真剣なことがあるかと想像して も、そんなにないと思います。たいていは、『まあこれでいいや』とか、『だいたいで』などがほとんどです。そんな中、一歩外から五輪を観ると、改めて真剣勝負の素晴らしさを実感することができました。真剣だから共感できる、応援したくなる。一瞬一瞬の息づかいに心が引き込まれました。今後、私も子供達への指導にも『真剣さ』と『感動』を忘れずに打ち込んでいきたいですね」


(聞き手:「講演依頼.com」小林孝至)


 

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