其の三 「己の甘さを知る その2」


 
最近めっきりと寒くなりましたね。私はお蔭様で風邪ひとつひかず日々柔道や講演、執筆活動などに精を出しています。このコラムがアップされる頃にはおそらく、12月7、8日に行われる福岡国際に向けて合宿中だと思います。今回の見どころはやはりYAWARAちゃんの復活戦だと思いますが、皆さんには是非、勝敗だけではないYAWARAちゃんのチャレンジする精神を見つめていただきたいと思います。柔道の面白みはその勝敗だけではなく個人個人の柔道に対する姿勢にもあります。私はテレビ解説をしながらこの大会を見つめますが、是非私の解説ぶりにも注目してくださいね(笑)。それでは前回の続き「己の甘さを知る」に入りたいと思いまます。

 

ただし、この大会において、自分のなかで「絶対に勝つ」という信念があったかといえば・・・・・・。
大学時代は71キロ級で世界の頂点に立つことに集中していた時期だった。結果としても前年にベオグラードで開かれた世界選手権大会で世界チャンピオンとなっていた。この年は大きな大会もなく、自分的には「一度挑戦してみるか」「取れるなら全日本のタイトルも狙いたい」程度の、ある種、希望的な気持ちしか持ち合わせていなかったように思う。それが本来間違いなのだが、当時の私はそれをまだ理解していなかったのだ。

試合には二回戦から出場し、まず135キロ、三回戦で120キロ、準々決勝では155キロ、準決勝では108キロの相手にすべて判定勝ちを収めた。決勝戦の相手は小川直也選手。当時は193センチ、130キロ。22歳同士。高校時代は東京代表として、それ以降は日本代表として別階級でともに励ましあってきた仲だった。準決勝までの試合時間は6分間だったが、決勝戦は10分間。すでに100キロを超える選手と4回戦ってきた私は肉体的にも精神的にも相当の疲労を感じていた。

開始から7分42秒。小川選手に一瞬いい組み手を持たれた。それまでは、対応しないと投げられたしまうとわかっており即座に反応したのでが、そのときは肉体的な疲れから、気持ち的に甘くなっていたと思う。(いいところを持たれたけど、大丈夫かな、なんとかなるかな)と思ったその瞬間だった。小川選手の足車が見事に決まり、思いっ切り身体が宙を舞った。私は武道館の天井を見ていた。

(続く)

『精神力』(角川書店)より抜粋

(次回更新 12月16日)


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